2015年1月28日

1月のラジオ

 いつもアメリカのラジオを聴いているので、おもしろいニュース、気になる話をご紹介できたらと思っていました。そこでふだんぼくが聴いているKPFAの1月初旬の番組からピックアップした話題を中心にアメリカの社会と文化がわかる楽しい情報をお伝えしようと思います。
 まず、はじめはハービー・ハンコックのインタビューから。ジャズとフュージョンの巨匠ですが、最大のヒット曲は1962年の〈ウォーターメロン・マン〉。その誕生にまつわる逸話はすでにあちこちで語られていると思うのですが、今回はいいわけがましい話をしています。というのも、昨年の全米図書賞授賞式でレモニー・スニケットことダニエル・ハンドラーがスピーチで不用意にふれたスイカにまつわるジョークに、若年層向け小説部門受賞者の黒人作家、ジャクリーン・ウッドスンが怒ったという出来事が大きな話題になったばかりだったからです。不勉強にして、ぼくもあまりよく知らなかったのですが、黒人はスイカが大好きで、スイカさえ食べていれば満足。暑い日の昼下がりには黒人たちはみんなスイカを食べてさぼっている。というようなイメージを誰もがもっていて、黒人とスイカはきっても切り離せない、黒人の愚かさと脳天気さを象徴しているというのです。ウッドスンはこのせいでからかわれたのがきっかけで、スイカ・アレルギーになり、スイカを食べられなくなったといいます。スイカはのんきな夏の風物詩などではなかったのです。ハンコックのインタビューでおもしろいのは、彼が住んでいたのはそんなイメージが残る南部ではなくシカゴで、お爺ちゃんがスイカ好きで、すでに公民権運動が盛りあがっていたせいで、黒人のステレオタイプ的イメージはもう払拭されようとしていて、などと、ステレオタイプとしての黒人のスイカ好きをモチーフにしたことを弁解していることです。先の事件を意識していることは間違いないのですが、たぶんじっさいにステレオタイプを利用してヒットさせようとしたのも(そして成功したのも)事実だと思われます。
 アメリカの文化人を見ていていやになるのが、妙なPCの意識と善悪の色分けをする傾向にあることです。先の授賞式事件はじっさいに受賞した作家をステレオタイプのイメージで判断してジョークにした不見識と相手を傷つけたことが問題になるのであって、ステレオタイプ自体が問題ではないように思います。ハンコックの場合はファンが支持したからヒットしたので、これもそれ自体は問題にならないと思うのです。ステレオタイプすべてが悪いということなら、人間を論じることなどできなくなります。ましてステレオタイプから逸脱することの楽しさを描くことも意味がなくなります。ただ、ハンコックの場合純粋なモダンジャズからフュージョンに転向した黒人純粋主義ではないことへの批判が脳裏に残っているのでしょうね。人種をめぐる発言には黒人であるからこそ敏感なのかもしれません。
 お気に入りの番組〈ブックウェーヴズ〉のゲストはクレスト・ブックスで邦訳紹介されているチャンネ・リー。去年刊行された最新作がディストピア小説だったので、そこを突っこまれています。リーはブラッドベリなどを読んでいたことは認めながらも、SF的設定を意識したわけではなく、新作では別のパースペクティヴで世界を描きたかったのだと述べています。このパースペクティヴというのは、ちょっといまぼくが意識しているテーマ。西洋の遠近法は基本的にズームイン、ズームアウトするだけで、視点は一定の直線延長上にしかないのにたいして、東洋の遠近法は複数の視点を導入しているので、発想が大きく異なっています。ここでもリーは韓国系アメリカ人でありながら、西欧的なパースペクティヴという言葉で、未来を異世界として描くのではなく、人間を見る同じ視線を固定したまま、背景をズームアウトすることによって、よりリアルに浮きあがらせようとしてみたということをいっているのだと思います。対象を見定めようとするのにふつう使われるのは三角測量で、異なる視点から同じものを見るというやり方ですが、こちらは文学の手法とは違ってSF的な感じがします。つまり、人間を描くのに異星人や機械知性の視点を使って見定めようというやり方ですね。作者がアメリカで教育を受けているからなのか、文学の人だからなのか、たぶん設定はSFでもSFの雰囲気がないと読者からいわれているのは、そういうことなのだろうと思います。残念ながらぼくはあまり食指が動かなかったので、読んではいません。ただ、ちょっと興味がわいてきました。
 音楽では最近自伝を出版したカルロス・サンタナがインタビューに応じています。ラテン・ロックの草分け的なギタリストで、ウッドストックでの演奏がとくに印象に残る人ですが、ここでは意外にも、ラテン・ミュージックはおじさんが大好きだったのでいやというほど聴かされていたため、もともと大嫌いでだったこと、そしてほんとうはライトニング・ホプキンスなどブルーズに夢中だった少年時代の話をしています。そう、ステレオタイプといえば、ぼくたちはついついサンタナはヒスパニックだからエスニック文化の影響を強く受けていると思いがちだけれど、彼にとっては人種より世代のほうが大きな影響力をもっていたのですね。フリートウッド・マックのコピー曲で初期の大ヒット、〈ブラック・マジック・ウーマン〉を取りあげたのは、ラテン・ロックにアレンジしやすかったからではなく、ほんとうにそのての同世代の白人ブルーズ・ロックに夢中だったからだということがよくわかります。今回はステレオタイプというか、固定した見方で判断することのあやうさを実感する話をつづけて聴いてきた気がします。
 しばらく、こうしたラジオからの情報をお伝えするブログも載せていこうかと思います。ご意見、ご感想をいただければ幸いです。

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